2011年7月10日
しばらく気にし続けていた天気について、早朝の日差しが安心させてくれた。今日もいつもと同じようにボランティアセンターに行き、8時のセンターミーティングの前までに諸業務を終わらせる。ミーティングのあと、関東からこの日にあわせてやってきてくれたスタッフの鈴木と3331ArtsChiyodaの長内さんにボランティア登録をしてもらい、他の現場が家財搬出などに向かうなかで、我々3人は仮設住宅へ向かう。今日は第一回マイタウンマーケットの当日だ。
この日のことについて、私はいちおう中心人物でもあるので色々語ることができるかもと思えるのだが、それでもやはりイチ個人の視点からのレポートという前提を記しておきたい。ようするにきっと、それくらい関わった人が多いし、その人その人によってきっと感想もちがうということをまずは今回の成果としたい。
8時過ぎにこどもたちから電話がはいった。「何時にくるの!?」昨日、時間を伝えたはず。9時半に集会所につくと、すでに準備をしていた人たち。まずなにからはじめよう、ひとまずゴザを敷いてみる。昨日のリハーサルを思い出しながら、子どもたちは目を付けていた色のゴザを手に取り運ぶ。いくつかリハと違うのを持っていく子もいたが、まぁ心変わりもあるだろう。
昼の部は3時から6時まで、全部で6店舗。夜の部は7時から、1店舗。
自治会長さんたち、いつもゴザを編みにきているお母さん、子どもたち。準備のためにみんなで動く。これまでにつくりつづけたゴザ16枚をつかって、店の配置や看板などを設置して、パラソルも開いてどんどんマーケットがつくられていく。真夏のような日差しの下、マーケットの外観と大きなスクリーンが住宅の壁にかかって午前中の準備を終了。集会所で弁当を食べる、なぜか数人の子どもたちもお母さんにおにぎりを持ってきてもらって一緒に食べる。食事中に少年がふざけて蹴ったボールが私と冷やし中華に直撃して大変なことになる事故があったが、無口で諭す私、さすがにまずい顔をして片付ける少年、タレがとびちったTシャツの代わりに支援物資のかっこいいTシャツをすぐもってきてくれた少年の母のコンビネーションによって難なく収まった。
午後からゴザの上の店づくり。用意していたそれぞれのお店の物品を配置する。「図書館」チームは前日におすすめの本をつめたカラーボックスを五つ運ぶ。分類して手作りのコメントもつけて凝っている。「服屋」チームは昨夜値札をつけた厳選の服と、その他たくさんの服をたたんだりハンガーにかけたり、衣紋掛けや、物干竿は大人の機転で集まってくる。リハ以上の店ができて店長の少年の気合いも入る。「カフェ」チームはテーブルをつくってクロスをかけたり、メニューを書いたり、しかも全く予想していなかった「出前システム」を付け加えたりしていた。「雑貨屋」はゴザ編みの横でせっせとおばあちゃんたちがつくってきた手作りカゴを売る。ついでに集まっていたセトモノも陳列しはじめた。2tトラックはスーパー担当のお母さんたちが地元の地場産市場の協力で持ってきた、商品。きゅうりやトマト、さらにフリーザーも持ってきている。いちじくアイスは本当に美味い。店員志望、保育所に通う女の子、ぴったりのエプロンを着て出番を前に張り切っている。話を聞きつけてやってきた地元生協の出店もやってきた。めまぐるしく、皆それぞれ準備をしている。
開始の時間を前にお客さんが集まり始めている。というかいつのまにか始まっている。自治会長さんに拡声器を手渡して、はじまりの合図をおねがいした。予定を30分はじめて第一回マイタウンマーケットのはじまり。
それまで一緒につくっていた人たちはお店の店員となり、しだいに多くなる人を接客している。子ども店員の元気な「いらっしゃいませー!」が響くとマーケット全体が和やかになる。すごく活気がある。自治会長さんは歩き回っていて、拡声器で宣伝する。私も歩き回っているのだが完全に脇役なので色々しているようだが、子どもたちに言わせれば何もしていないらしい。
改めて見てみると、店員とお客という位置づけはあるものの、全体がマイタウンマーケットという「ままごと感」のような雰囲気で一体になっている印象。
気になるのは近づいてくる暗雲だ。ここからの空をみながらこれまで何日も人と話していた私でもわかる。雨がくる。船方のお父さんが雨が降ると予想し声をあげた日と似た雲だからだ。数人が雨対策に動く。スクリーンはどうする、できるだけシートをかけて雨を凌ぐか、集会所の中に置き換えるか。ポツっときた。しばらくは小雨だったが、雷もなって、そのうち大雨になった。「しばしご歓談を。」とこの日はじめて拡声器をつかって声をだした。集会所にはいる人たち。お店の商品などはそれぞれの店員、お客としてきた人も協力して集会所に動かす。とりあえず対策が終わった大雨のなか、私は雨風で飛んだポスターを拾い、空をみて考えた。車にのって近くのコメリへ、Tシャツ数枚と、ブルーシートを5枚買った。通り雨だということはわかっていたので雨の量を考えて、晴れたらすぐに再開するための買い出し。帰り道で思った、集会所の中のみんなはどうしているのだろう、どうしようもなくなって手持ち無沙汰になっているかも、機転をきかせたつもりの買い出しを一瞬後悔するが、戻って驚く。集会所に店ができていた。後から聞いた話では残った人たちが「やろう!」といって品を広げたそうだ。私が思っている以上に第一回はみんなで作れているのだと思った。
雨が止むまえ、私は屋内でつづけるのではなく屋外で再開する決断を自治会長さんたちに伝える。そしてあめ止む。水たまりのない場所をねらって、先ほどと位置をずらしながらひとつひとつ店を再開させていく。準備の時に見なかった顔が再開にむけて動いているということは、お客さんが一緒になっているんだなと気づく。服屋はすぐにはじまった。「カフェもやろうよ!」と声かけたのはカフェ店員の少女のお母さんだった。子どもの後ろにいて手伝っていたから、我が子のその姿がまだ見たいと思ってるのかなーと「よし、やろう!」と答えながら想像する。スーパー、図書館、カゴ屋。再開して活気が前以上に拡がる。嵐を超えてもう一度マイタウンマーケットをはじめる瞬間、本当にみんなでつくっている気運を肌が感じた。
自治会長さんが拡声器をにぎる。再開したてのマーケットを遊歩しながら「私たちはあの大津波を経験したんだから、嵐くらいどうってことありません。」私はこの言葉を聞いて正直に微笑んでいた。「屋外のマーケット+雷雨」という想定できる最悪の状況でこの言葉、それは素晴らしいユーモアに聞こえたのだ。この日この場所で、このユーモアを言える自治会長さんを私は心から尊敬する。
カゴが完売した。報告するおばあちゃんが自分で言いながら一番驚いているらしい。集会所の中に手招きされてカゴの売上金を渡された、何度か受け取ることを断ろうとしたがあきらめた。あきらめの決め手は「私たちでも何かできることがあるのがわかったから、また企画して。一緒にやるからね。」という言葉だった。第二回の運営費に当てよう。
とはいえ昼の部はまだ終わっていない、カゴは売れてしまったが今度はこの場で作ろうと、私が率先してカゴづくりをする。「ここでつくるの?」といいながらおばあちゃんたちも集まって、実演販売のようにスタート。お客さんも参加していった。
ときに店員になって、お客になって、脇役をやりながら、私も楽しむ。しかもそうやって同じように店員になったり客になったりしている人たちは結構いた。子どもも親もさらにその親世代も。店、客など、役割の境界があるようで実はない「手作りらしさ」は本番だからこそ気づくマイタウンマーケットの特徴だ。私と西川さんはが4月に話していたことを思い出す。見えない地震、つまりひとつの地域に起こった「関係のズレ」についてだ。それを乗り越える、小さな手段としてこの時間を見たりもした。
5時半くらいになるとすこしずつ客足もへる。自然と片付けをはじめて7時からの夜の部へ備える。散らばってそれぞれの店になっていたゴザをひとつに集めて「映画館」をつくる。隠れたミッションとして大活躍の子どもたちを一旦かえらせて夕食と風呂を済ませてきてもらうというのがあった。これはなかなか難しいし、重要なことだ。
仮設以外からの人は夜の部もいたが少なく、よく見る人たちが最後まで残ってマーケットの余韻にひたっているような情景だった。仮設住宅の壁面の巨大スクリーンと映し出される映像、その光を受けて色が見えるゴザと、集まる人。風呂上がりの子どもたちがゴザに転がる。大人はビールを呑んでいる。私は一応「映画館」担当だったので音量調節をしたりしていた。もっと呑めばよかったと、この点は後悔と反省点。普段より明るい月夜と立ち並ぶ住宅を背景に、クライマックスのシーンと拍手がなる。最後はみんなで片付けて、いつもの砂利道にもどる。蚊に刺された箇所がかゆい。遅くなった帰り道、余韻とともに第二回にむけたゴザ編みのことや、「マイタウン」と「マーケット」のバランス、次回は蚊取り線香も必要か、など今後に向けて考える。
それから、あらしのような雷雨が来たあの時の決断とそのあとの恊働の姿のつながりについて自然と長い時間ふりかえっていた。そういえば映画館で上映した映画のタイトルは「あらしのよるに」であった。
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今回のマイタウンマーケットに際して様々にご協力いただきました
遠藤商会様
新地町図書館様
徳島県よりウッドアイビス 新居様、龍江堂印判店 赤岩様
福島県災害ボランティアセンター通信「はぁとふる」ライターの掃部様
株式会社しか屋 宮之原様
いわきアリオス 森様
いわきぼうけん映画祭実行委員会様
キタミンラボ舍 吉田様
この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
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マイタウンマーケット実行委員会
北澤潤
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