2011年4月29日 金曜日
「小さな喫茶店」
昨日、絨毯をつくり終えた私はタイミングを探っていた。絨毯の上に座り、近くの黒板と机上の紙に色々と書いていたら、子どもたちが寄ってきた。「この絨毯の上に店をつくろうと思う。」といって〈町にある店〉をリストアップしてみている紙をみせた。1人がかなり興味を示し、他の子は様子を伺っている。花屋、服屋、八百屋、郵便局、喫茶店、歯医者、床屋。しばらくして、この中のどれを選ぶか待っていると、少女は喫茶店がいいと言った。そこから夜10時までエプロンをつくって準備をしたのだった。
急展開で喫茶店をオープンさせることになった本日、約束の朝8時半をすこし過ぎて到着するとすでに子どもたちが準備にとりかかっている。新地小学校の給食の先生でもあるテルミさんと子どもたち数人と私で慌ただしい喫茶店準備がはじまった。まずは本部に許可をもらう。余っているから物資を使ったらいいと助言もいただいた。となると、食事担当のお母さん方にも物資を使う許可をとらないといけない。テルミさんと小4のレミと私があっちへこっちへうごきまわる。テルミさんもここで生活していて食事当番もしているので交渉はスムーズで快諾された。
つづいてチラシをつくる。レミの意見で店名は「小さな喫茶店」に決まり、日時や場所を手書きしたチラシをつくる。40枚くらいできると体育館に行き広報する。1枚1枚手渡ししてまわっていくと、いつも遊んだり漫画よんだりしているレミがなにやらしだしたぞ、何だ何だとみんな微笑ましいリアクション。
昼食が終わるときを見計らって、ついに「小さな喫茶店」がオープン。私はお湯を注ぐ役をやって、その他の部分は子どもたちが頑張る。ウエイトレスから、営業から、ホットケーキづくりから、なんでもやるので途中で私は抜けて写真を撮ったりしていた。次々にお客がやってきて、大忙し。小さな店員は焦るが、お客さんはその焦るすがたをみて笑ったりしている。
大好評なので夕食後にもやることになり、もう一度チラシをつくって配る。さっきはやりたいけどどうしようと迷っていた子も第二弾は全員参加の意思を固める。小2のアズサはやりたさのあまりに泣いていた。追加の買い出しのためすぐ近くの商店に出向く。おそらく子どもたちは外に出てはいけないのだろうが、ついてきた。おしるこやフルーツポンチの新メニューのために白玉粉を購入し、帰り道は小雨がふっていたので急いでもどった。以前は普通に歩き回っていた道に出るのもままならない。
夕食後は昼間の倍以上のお客で、てんやわんや。注文票がまたたく間にたまっていく。「このために絨毯あんでたんかー。」すわりながら追加注文するおじさん。ウエイトレスの二人は食堂イスに座るお客さんのところへ歩み寄る。コーヒー、抹茶カプチーノ、ココア、おしるこ、フルーツポンチ、あんみつ。注文殺到する。意外と冷静な調理班は分業してうまくつくっている。お湯を注ぐだけの私の方が落ち着きがなかったくらいかもしれない。だんだんと、客足が落ち着いてきて、絨毯に座る数人のお客と話しながら子どもたちも好きなものを食べる。自然と閉店して片付けた。
町のパーツをリストアップして、その中から選んだ一つを絨毯の上に立ち上げる。今回は喫茶店だけど次回は何にする?という話で最後に盛り上がるが結局ひとつには決まらなかった。また喫茶店をやりたいという意見もあって、それもそれでいいように思える。前日の準備中に、私のスケッチをイズミが見つけたことがキッカケで彼女たちやテルミさんは今回がまず一歩目だということを分かっている。「今回はひとつだけど、いつかは同時に何個もおなじように開いて、市場のようにやれないかと思ってる。仮設住宅にうつってから。」そう説明すると、それぞれ住む仮設が違うので、イマイズミの仮設でやろうよ、オオドの仮設でもやろうよ、など意見がとんだ。もし実現するのならそのときも一緒にやろうと約束する。
彼女たちは私について、年齢と名前くらいしか知らないと思う。あんまり詳しい自己紹介をしたくなかった。私は支援する人でも、ボランティアでも、避難している人でもなく、絨毯を編む人としてここにしばらく居た事で、「小さな喫茶店」の時にも脇役でいることができたのだと思う。被災、避難、支援、チャリティ、物資。同じ人間を区別し隔てるコトバがいまここに散布されている。それぞれの意味がプラスであるかマイナスであるか関係なしに、これらの言葉は彼女たちを他と異なる存在として括ろうと働いてしまう。それはとてつもない震災によって現れたもうひとつの現実。レミやイズミやミフユやアズサやアミは、どうもそれを気持ち悪がっている気がした。私もどこか気にくわなかった。まず彼女たちと、「私」と「あなた」という関係の元、小さな行動を共有してみたかった。そのために、私は絨毯を編んだり、喫茶店を準備するプロセスで、私自身の先入観を慎重に剥がしていかなければいけなかった。ようやく剥がれてきたようなところで気づくと彼女たちは店員になってバリバリ働いていた。